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鹿児島地方裁判所 昭和23年(行)23号 判決 1948年12月14日

原告

渡邊金之助

被告

鹿兒島縣農地委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告が昭和二十二年十二月一日なした原告所有の鹿兒島縣囎唹郡末吉町岩崎字川路三千五十九番田九畝二十七歩を末吉町農地委員会が樹立した買收計画から除外しない旨の裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、請求原因として

「訴外末吉町農地委員会は原告所有の請求の趣旨記載の農地を小作人たる訴外丸鶴廣吉からの自作農創設特別措置法施行令第四十三條同法附則第二項(以下令及法と略称する)による買收申請にもとずき買收計画に編入したので原告はその縱覽期間内に異議の申立をしたが棄却された。そこで更に被告に対し訴願を提起したがこれも棄却され請求の趣旨記載のような裁決が昭和二十三年二月一日原告に送達された。しかしながら、本件農地は原告が昭和二十二年二月本件買收計画樹立以前に小作人丸鶴廣吉から合意の上円満に返還してもらい、昭和二十二年の稻作から自作しているものであつてかゝる農地を小作地として買收するのは違法である。なおまた被告の裁決によれば末吉町農地委員会は小作人丸鶴廣吉からの遡及買收の申請にもとずき買收計画を樹立したもののようであるが、丸鶴廣吉は遡及買收の申請をしたことはないから末吉町農地委員会がこれをあるものとして令第四十三條法附則第二項を適用して買收計画をたてたのは違法である。從てこれを認容した被告の裁決は違法であるからその取消を求めるため本訴に及んだ次第である。」

と陳述し(立証略)

被告訴訟代理人は「主文同旨の判決」を求め、答弁として

「訴外末吉町農地委員会が本件土地につき買收計画を定め、原告がこれに異議申立をしたが棄却されたので更に被告に訴願したところ被告が請求の趣旨記載のような裁決をしこれが昭和二十三年二月一日原告に送達されたことは認めるがその余の原告の主張事実は否認する。

本件土地は訴外丸鶴廣吉が十数年前原告から賃借し引続き耕作して來ているものであるが、原告は昭和二十二年六月中適法な許可がないのにこれを取上げ自ら耕作するに至つたものである。しかして末吉町農地委員会は小作人丸鶴廣吉の買收希望を斟酌し且つ地主及小作人の経営面積、労働力、家族数增産、生活状態等諸般の事情を精査し令第四十五條により審議し、法附則第二項に從い昭和二十年十一月二十三日の現在事実にもとずき法第三條第一項第三号該当農地と認め、買收計画をたてたものであり、被告はこれを適法且つ正当と認めて本件裁決をしたものであつて何等の違法も存しないものである」

と陳述し(立証略)

理由

訴外末吉町農地委員会が原告所有の本件土地を法附則第二項により昭和二十年十一月二十三日現在の事実にもとずき法第三條第一項第三号該当農地と認めて買收計画に編入したこと、原告がこれに対し期間内に異議申立をなし棄却されて更に被告に訴願したところ、被告は請求の趣旨記載の如き裁決をしその裁決書が昭和二十三年二月一日原告に送達されたことは当事者間に爭がない。

しかして証人春田定〓同加藤正義の証言に徴すれば訴外末吉町農地委員会は本件農地につき令第四十五條を適用し、法附則第二項により買收計画をたてたことを認められるのであるが、原告が数年來本件農地を訴外丸鶴廣吉に賃貸小作さしていたところ昭和二十二年二月同訴外人から取上げ自ら耕作しその後間もなく末吉町農地委員会が右農地を買收計画に編入したことは原告の自認するところだから、同町農地委員会が右の事実を知ると共に令第四十五條法附則第二項の規定により昭和二十年十一月二十三日現在の事実にもとずき農地買收計画を定めることの可否を審議した結果本件農地を買收計画に編入すべきものと認定したことは手続上何等違法な点はないといはなければならない(本件裁決書には本件農地の買收を令第四十三條にもとずくものと記載してあるが右は令第四十五條の誤記と認める。

仮に誤記でないとしても遡及買收をなすに当つて令第四十三條によると令第四十五條によるとは遡及買收の発動を促す者が小作人たるか否かによつて区別せられる手続上の差異に過ぎず実質上差異を生ずる問題ではないから末吉町農地委員会の本件買收計画樹立が令第四十五條を適法に適用して行はれている以上被告の裁決に於ける右の誤認は違法として取消に値するものといいえない)。

しからば、末吉町農地委員会が前記法條を適用して本件農地を買收すべきものと定めたことにつき実質上の違法があるであらうか。証人丸鶴廣吉及加藤正義の各証言を綜合すれば十年位前から本件農地を小作していた訴外丸鶴廣吉は昭和二十二年二月右農地を原告に返還したが、それは十分に納得した上での合意解約にもとずくものではなく、同訴外人に於て原告に対し再三耕作の継続を交渉したにも拘らず原告が聽容れないため、小作人としての弱い立場から不服も言い切れず返還したものであること、しかも原告に右農地の取上について鹿兒島縣知事の許可を受けていないことを窺い知ることができる。右認定に反する証人上園藤吉、渡邊金左衞門の各証言並びに原告本人の供述は措信しがたく他に前記認定を覆すに足る確証はない。したがつて原告がなした本件農地の取上は正当適法なものとは言いえないから本件農地は昭和二十年十一月二十三日現在の事実にもとずき原告の小作地として取扱うべく保有面積を超過するときは当然買收の対象となるべきものと解すべきところ、原告所有の自作地が田畑合計一町八反六畝十七歩小作地が田畑合計一町五反二十八歩自小作地合計三町三反七畝十五歩であることは前記加藤証人の証言に徴し明かだから本件小作地は保有量を超過する小作地であるといわねばならず末吉町農地委員会が法第三條第一項第三号該当の小作地として買收すべきものと認定したことは適法な処分であると言はざるを得ない。從てこの買收計画を認容した被告の裁決も正当で何等違法の点はない。

よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一條民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決した次第である。

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